UMTPおよび認定試験制度の変革に向けて-MX(Modeling Transformation)-

問題作成部会主査:株式会社豆蔵 羽生田栄一

はじめに

ちょうど一年ほど前、現状のUMTP認定試験制度が時代の要請にそぐわない面が出てきているのではないか、それを真摯に受け止めて認定試験のあり方自体も見直しを図るべきなのではないか、と提案しました。試験内容もテーマや出題範囲をアジャイル・DX時代に合わせて少しずつシフトしていかないと、今後徐々に時代のニーズからズレた団体および認定試験になっていく可能性が高くなります。
  約一年掛けて問題作成部会およびモデリング実践部会の有志の方々に毎月集まっていただき議論を重ねてきました。まだ中間報告ですが、現時点でのUMTPおよび認定試験制度の見直しに関わる方向性に関してご提示いたします。

<1>問題意識

UMTP設立当時の2000年代と現在の2020年代とを比べた場合、大きな変化がいくつかあります。ざっくりと、以下の課題があると認識しています。

(1)オブジェクト指向技術の実装レベルでの普及浸透(特にJava)に伴い、各種フレームワークやツール類が充実し、一部のアーキテクトや設計者を除いてゼロからオブジェクト指向分析設計(いわゆるOOAD)を行う必要がない、という誤解や勘違いが増えた。結果、実質的にもOOADの需要と、それを実行可能なスキルを持つ人材が減ってきた。

(2)20-10年前に比べ、クラウド環境の台頭と並行して、スクラッチで大規模なシステム開発を行うという需要・機会が大幅に減ってきた(これは上の(1)にもつながる)。これが、システム全体をドメインやシステム・アーキテクチャの全体をモデル化するという機会・ノウハウの習得から遠ざけ、結果として、モデリング人材の減少・衰退に拍車をかけている。

(3)一方で、アジャイル開発のスタイルが、2010年代からじわじわ伸びてきた。「動かないモデルよりも実行可能なコード」をチームで共有して反復的に進化させていくべしという、それ自体はまっとうな主張が、スクラムやテスト駆動開発という実践的な手法とともに、現実のプロジェクトでも実現可能になった。この趨勢は留まることはなく、今後プロジェクトの半数以上はアジャイルになると思われる。しかしUMTPとして、アジャイル開発の中でも本来重要なはずのモデリングのあり方についての研究啓発が進んでいない。

(4)さらに、現在、DXという掛け声のもと、開発プロジェクト中心から、プロダクト・サービスを中心としたビジネス価値や経営と直結したソフトウェア組織の在り方が問われるようになった。デザイン思考やビジネスモデリング、アジャイル経営の中でのプロダクトやサービス・デザインのモデリングの重要性が高まってきている。しかし、UMTPとしては正面から対応しきれていない。

(5)一部の業務系開発や、サービス・プロダクト企画・開発において、若い世代を中心に、DDD(ドメイン駆動設計)と呼ばれるDX時代のオブジェクト指向開発手法が提唱・実践されている。しかし、UMTPとしてこれらの動きとのコラボができていない。

(6)組込み系ソフトウェア開発においては、一定のモデリングのニーズが安定して存在する。以前より、オブジェクト指向モデリングにもとづく分析設計や、MBSEという形でモデル駆動のコード生成まで意識した開発手法、テスト技法や形式手法などとも連携した、品質を意識した開発手法が定着しつつある。さらに今後は、DXやIoTという視点で、従来の組込み系とビジネスやサービス系との融合まで意識したモデリングのあり方が問われるはずである。

(7)また時代の大きな流れとして、AIや機械学習・深層学習・データサイエンスの観点でのモデリング、ビッグデータやIoTを意識したデータモデリング、アジャイルとDDDを意識 したDevOpsまで含めたモデリング、等々、新しい技術側面と新しい組織運営を前提としたモデリング技術・モデリングスキル・モデリング教育の在り方が求められる。

<2>認定試験の改訂の基本方針

こうした問題認識の下で、実質半年ほど議論を重ねてきた結果、現実的な対応策を導く上でのUMTPとしての基本的なスタンスのあり方が浮かび上がってきました。手持ちのリソースが少ない中で、できるだけ実質的な価値が提供できるようにしたいという有志の思いを集約した対応方針です。(各番号の頭はPolicyのPである)

(P1)上記(1)(2)(3)を踏まえて、アジャイルなスタイルでチームや組織での「ビジョンや課題、ドメインや設計上のポイントなどをざっくりモデリングして全体像と肝を共有する」というスケッチレベルのモデルの活用の重要性をしっかりと普及啓発することに注力する。

(P2)上記(5)(6)(7)を踏まえて、単純な業務システム・組込み系システムのモデリングだけでなく、ビジネスやサービスの企画、業務や組織や市場のモデリング、複数のドメインや企画と開発と運用にまたがるモデリング、などのマルチ・コンテキストを踏まえた モデリング技術・スキルを整理して普及啓発していくことが求められる。

(P3)実質的には、きちんと(P1)(P2)さえできれば、汎用的で実践的な課題解決の基本が実行可能だ。DXやAIやIoT、アジャイルや DevOps、DDDといったコンテキストの中で モデリングを行う、という問題設定(最低限キーワードの利用など)での試験問題を増やす。

(P4)P3の線に沿った各レベルの試験対策講座の内容を見直す。また、対策講座と本番試験の シームレス化といった試験スタイルも、コストを掛けない現実的な普及啓発策として検討する。

(P5)全課題、特に(7)に対応して、ブランディングとマーケティングの強化が重要である。 UMTPのプロモーションという観点から、DXやAIやIoT、アジャイルやDevOps、DDD、デザイン思考やシステムズ・エンジニアリングの関連団体とのモデリング観点での連携・コラボを、できる限り強力に推進する。FB、インスタグラム、Twitterの積極的な活用による発信にも取り組む。

<3>認定試験の内容改訂の方針

今後、アジャイル・DX・ビジネスやサービス企画に即したモデリングのための認定試験の実施が順次できるよう、2021年度も継続して検討、企画していきます。モデリング実践部会と問題作成部会が協働で進め、2022年度頭までに新試験の枠組みを明確にします。

(1)L1、L2、L3は、関連キーワードや概念理解確認問題を追加、また、問題背景のDX・IoT対応を若干行うことで最小限対応できる。L4はすでに対応済み。

(2)さらに、DXで必要な新たなモデリングスキル(ビジネスモデル・キャンバスやユーザーストーリーマッピングなどのモデリング・ツール、デザイン思考やリーンスタートアップ 的な思考プロセスなど)の取り込みは、一部L2で、本格的にはL3で行う。

(3)今回の改訂の機会に、UMTP認定制度の本格的なマーケティング活動に投資すべき。バッジ制度の導入、PM団体、スクラムなどのアジャイル団体、ビジネス分析の団体との連携を検討し、試験の趣旨にPM・プロダクトオウナー、スクラムマスターといった具体的なロール名を織り込むことも検討して良い。

(4) L1、L2、L3、L4の試験問題の内容については、既存の問題の8割は継続使用可能とみている。新規内容2割程度に入れ替えのために、追加問題のサンプル作成および正規問題作成作業の外注が必要となる。2021年度中にサンプル問題を開発し、2022年度頭には 正規問題作成の発注ができることが望ましい。

<4>認定試験の運用自体の見直しの方針

現在のように、認定試験のプラットフォームを民間の試験運用会社に委託している形態が 望ましいのか否かも検討しておいた方がよいと考えています(移行のコストや自分たちで試験Webサービスを立ち上げることを考えるとなかなか困難ですが)。また、それに付随して、L3, L4をセミナー・ワークショップとセットで有料提供する枠組みの併用も検討します。これについては、併せて、コストや運営・講師調達のしくみ・本人確認のしくみ・デジタル化・Web化などの 調査検討を行っていく必要があります。

(1) 現状のL2、L3で提供しているドラッグ&ドロップによるクラス図・シーケンス図・ ステートマシン図等の実践的なモデリングスキルを問うテスト形式を今後も継続できるか否かを早急に見極める必要がある。それが難しいという結論になった場合は、例えば、 Webベースのプラットフォームへの移行(新規委託業者の発掘ないしは新規開発の委託)に向けての検討作業が必須となる。

(2) L3に関しては、受験者が100人未満ということもあり、今後2日程度の試験対策 セミナー&ワークショップを有料で提供し、セミナー内での理解度や成果物への貢献度とその品質をみて受験資格を与え、最終日の実地試験ないしは新たに開発用意するWeb試験の受験で合格証を与えるというセミナー中心の枠組みに移行することも検討する。そのための試行セミナーのトライアル実施が必要である。

(3)L4に関しては、本年度すでに「メールのやりとり+最終リモート面接試験」という枠組(この中でサービス企画やIoT要素の分析設計、ビジネスとアーキテクチャの影響分析などを課題に織り込み済)での実施に踏み切った。この枠組みを今後充実発展させていく。ただし、広報の意味も含めた対策セミナー(ないしは添削講座)をトライアル実施する必要がある。

以上