モデリングの意義

 システム開発の現場では相変わらず、赤字システム案件続出、避けられない開発途中における顧客の仕様変更、自社技術独自仕様へのこだわり、低い生産性が問題になっています。
平成15年のJUASのIT動向調査によれば、
「要求仕様書をユーザ企業が作成している率は653社のうち16パーセントである。」
「661社のうち606社がシステム仕様の定義が不十分のまま発注してしまった。」
「392社が委託先に要求仕様条件(RFP)を明確に提示しなかった。」
またベンダーへの最大の不満は提案力不足であるとレポートされている。

 一方、この3年間はこの業界への就業者数は頭打ち,やや減少傾向、情報サービス産業における年間売上高は14兆円強であるが、言語、文化の違いに守られた国内市場、圧倒的に輸入超過状況です。
平成17年6月21日経団連の提言のよれば、
「情報サービス産業の競争力は、わが国産業全体の競争力に大きな影響を及ぼすようになっている。」
「情報サービス産業の競争力は人的資源の質に大きく依存している。」
人材育成についても「高等教育機関で産業界のニーズに即した実務教育が行われているのか」と疑問を投げかけ、危機感をつのらせている。

 様々な問題点の指摘がなされているが本質はなんだろうか?
情報技術のスキル以前に対象となる組織の業務や現場の問題点を発掘,掴み、論理的思考やモデル化する能力が前提として必要ではないかと思う次第です。
論理的に考え表現する力、{つまり知識->考える->認識する->理解する->表現する(対象の本質を定められた方法で表現したもの。モデル化するプロセス)}を身に付けその上でスキルを取得することが本質であり情報システム開発の原点であります。情報システムの分析,設計とは対象のモデル化であり、概念化することです。(概念化とはクラスおよびクラスの関係の抽出)モデリングの重要性はこの一点に絞られます。モデリングはコミュニュケーションを円滑に進めるため出発点であり、オブジェクト指向開発の根幹です。

 西洋思想はギリシャ以来伝統的に内的本質を見極めようとする傾向があるのに対して、東洋思想は相互関係やコンテクストを重視するといわれています。情報システムにはオブジェクト指向とコンテクスト思考両面必要なのですが日本人がオブジェクト指向開発を習熟するには、もっと本質の究明といった面に強くなる必要があります。

UMTP/Japan 会長
羽生田 栄一