第4回UMTPモデリング技術セミナーは、慶應義塾大学 名誉教授の中村善太郎先生を迎え、「要のもの・こと分析」について講演していただきました。
「もの・こと分析」の原点は、考え方の転換にあります。すなわち、環境が大きく変化し、複雑化が進むなかにあって、
- 良くない物事(ムダ)の排除によって改善を進めるだけでは限界がある
- むしろ、良い物事(価値)を追求し、シンプルな物事を追及することこそが必要である、
という考え方の転換です。「もの・こと分析」では、仕事を行うための新たな良い方法を考えるには、その方法のムダを省くことから取り掛かるのではなく、まずその方法の真の目的は何かと問いかけ、その後に、その目的を達成する手段を問いかける、という思考様式の大切さを一貫して説いています。
2008年度最後のUMTPモデリング技術セミナーのテーマは、モデリングを議論する我々にとっても、このような考え方の転換やそのための方法論が必要ではないか、という事前の議論を通して、今回のテーマに決まりました。
講師は、Industrial Engineering、生産管理、経済性工学を専門分野とされ、これらの研究で培った知見と考え方をもとに、仕事のシステムの改善・設計の方法論として「もの・こと分析」を体系化しました。現在は、研究・教育・コンサルティングで活躍されています。「もの・こと分析」の主な適用分野は「もの作り」の分野、すなわち製造業ですが、講師は、これがもの作りに限定される方法論ではないといいます。ここ数年、ICT(情報通信技術)分野でも、ソフトウェアシステムの分析・アーキテクチャ設計の視点として、「もの・こと分析」の考え方を応用しようという取り組みが増えてきたことも周知の通りです。
講演では、「要のもの・こと分析」の考え方を、様々な事例を通してご紹介いただきました。
内容は、前半は「ペンにキャップをかぶせる」「塗装」等の分かりやすい例を通して「要のもの・こと分析」を説明いただいた後、中盤で製造業における「切粉ホッパー」の具体事例をご紹介いただき、最後に、情報システムにおける「購買請求」の事例を通して「要のもの・こと分析」の考え方とその活用のしかたをあらためて説明いただきました。具体的な事例を使ってご紹介いただけたためか、セミナーの後に回収したアンケートを見ても、聴講者には、講師の講演内容が分かりやすく伝わったようです。
しばしの休憩を挟んで行われたワークショップでも、講師とモデリング技術部会のメンバと活発な議論が行われました。今回は特に、UMTPモデリング技術セミナーの第2回の講師である山田様、第3回の講師である浅海様にも一緒に議論に参加いただきました。「要のもの・こと分析」は、対象の見方や「システムロード」「良品条件」など、これからモデリングの体系化を考えていこうとする我々に新しい視点を与えてくれました。
セミナーに参加した聴講者にも、またその後引き続き議論に参加したモデリング技術部会のメンバにとっても、これからの考えるヒントを提示いただいたことは、大変有意義でした。講師の中村先生、そしてセミナーを盛り上げてくれた参加者の皆様、どうもありがとうございました。